沖ノ島の世界遺産登録と映像による価値の伝達
2007-2018 金研究室と石井研究室の共同プロジェクト
世界遺産登録
沖ノ島(おきのしま)は、2017年7月9日に世界文化遺産に登録されました。正式な登録名は「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」です。この登録は、沖ノ島(宗像大社沖津宮)に残る古代祭祀遺跡だけでなく、宗像三女神への信仰が現代まで受け継がれている点を含め、宗像地域全体の文化的・信仰的価値が総合的に評価されたものです。

世界遺産登録前における映像活用の意義
登録以前の沖ノ島を効果的にPRするためには、高精細映像や立体実写映像の活用が不可欠でした。それは、沖ノ島の持つ特異な文化的価値を伝えると同時に、島全体が神域であることから生じる物理的アクセス制限を克服するための、ほぼ唯一の手段だったからです。
その目的のもと、福岡県・宗像市と本研究室は、映像コンテンツを用いた知名度向上を目指し、登録までの期間において受託研究および共同研究を実施しました。

登録前PRにおける映像の役割
1. 映像による情報発信の必要性
沖ノ島は全島が宗像大社の神域であり、古来の禁忌(例:女人禁制)が今も厳格に守られています。このため、一般人が島に立ち入ることは原則としてできません。したがって、映像による広報活動には次のような重要な役割がありました。
- 物理的制約の克服
島に直接立ち入ることができない中で、映像は沖ノ島の内部に息づく歴史や神聖な空気、祭祀の痕跡を間接的に体験できる唯一の手段でした。 - 「顕著な普遍的価値(OUV)」の視覚的伝達世界遺産登録に求められる「顕著な普遍的価値」は、古代祭祀遺跡の保存状態、出土品の考古学的価値、そして信仰の継続性など、複合的かつ抽象的な要素で構成されています。
これらを感情に訴える形で伝えるには、文字や静止画では限界があり、映像による臨場感ある表現が不可欠でした。

2.「リアリティ」と「奥行き」を伝える映像表現
沖ノ島の祭祀場や自然環境は、巨岩や断崖、そして玄界灘の広がりによって形成される立体的で複雑な空間です。しかし、この神聖な空間に一般人が立ち入ることはできません。そのため、登録前の広報活動では「立ち入れない遺産の価値をいかに伝えるか」が最大の課題となりました。
この課題を解決するために、当時は高精細3D実写立体映像(専用メガネによる立体視映像)が有効な手段となりました。具体的には、次のような効果が得られます。
- 祭祀空間の再現
3D映像により、岩陰や岩上といった祭祀の場の奥行きや空間構造を忠実に再現できます。これにより、平面映像では伝わりにくい神聖な雰囲気や迫力を体感的に伝えることが可能になります。 - 神聖性の表現強化
島全体がご神体であるという独特の信仰を表現するには、その「存在感」を感じさせる演出が重要です。3D映像は、岩・樹木・海といった自然要素を立体的に浮かび上がらせ、まるで鑑賞者の目の前に実在するかのような神々しさを演出します。








神宿る島「沖ノ島」
3. 子ども向け3DCGアニメーション制作
現地での体験や直接的な学習の機会は極めて限られており、とりわけ子どもたちが興味を持って学ぶことが難しいという課題があります。このため、3DCGアニメーションによる教育的コンテンツの制作は、次世代に文化的価値をわかりやすく伝承するための有効な手段となります。特に、アニメーションを通じて「神宿る島」という抽象的な概念を物語的・感情的に描くことで、子どもたちが文化遺産を“自分ごと”として感じることが可能になります。
子ども向け3DCGアニメーションは、沖ノ島のように「実際に触れられない世界遺産」の価値を、感性と物語の力で次世代に伝えるための重要なメディアです。この取り組みを通して、未来の世代が「神宿る島」に込められた信仰と自然への畏敬を自らの心に受け継ぐことが期待されます。

